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東京地方裁判所 平成5年(ワ)19270号 判決 1995年12月13日

原告

三洋信販株式会社

右代表者代表取締役

椎木正和

右訴訟代理人弁護士

高山征治郎

東松文雄

亀井美智子

中島章智

枝野幸男

被告

黒田輝久

右訴訟代理人弁護士

茂木洋

主文

一  被告は、原告に対し、別紙目録記載の会員権につき、その名義を原告あるいは原告から譲り受けた第三者名義に変更する旨の西野商事株式会社に対する名義書換手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

1(一)  株式会社フジクラ(フジクラ)は、平成二年七月ころ、紀ノ国ゴルフサービスこと栗原武(栗原)に対し、弁済期を定めることなく二〇〇〇万円を貸し付け、被告は、同日、右金銭消費貸借契約に基づく栗原の債務の担保として、フジクラに対し、別紙目録記載のゴルフ会員権(本件会員権)を譲渡した(本件譲渡担保設定契約)(争いがない)。

(二)  被告は、栗原から頼まれて資金を融通したり、同人の資金調達等のために合計五、六〇〇〇万円相当の被告名義のゴルフ会員権を同人に貸し与えていたが、その返還を受けることができないでいたところ、平成二年七月当時、被告が個人的に資金を必要とする事情が生じたため、右(一)のとおり、本件会員権を譲渡担保に供して、栗原をしてフジクラから二〇〇〇万円の融資を受けさせた。被告は、栗原がフジクラから二〇〇〇万円の融資を受けると、その場でその全額を受領したが、その際、二〇〇〇万円のうち一〇〇〇万円は、その数日前に栗原に融資した一〇〇〇万円の弁済として受領し、残金についても、栗原に貸し与えていた被告名義のゴルフ会員権が返還不能となった場合の損害と清算するつもりで受領した(被告本人)。

2(一)  原告は、平成二年七月二〇日、フジクラに対して、利息を年10.8パーセント、弁済期を平成三年七月一九日、利息は平成二年七月二〇日を第一回として毎月二〇日限り一か月分先払い、元利金の支払いを一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失うとの約定のもとに五〇〇〇万円を貸し付け、フジクラは、原告に対し、右金銭消費貸借契約に基づく債務の担保として、本件会員権を譲渡し、右金銭消費貸借契約上の債務を期限に履行しない場合には、原告において本件会員権を売却処分するか又は相当な評価額で譲り受けて債務の弁済に充当することができる旨を約した。なお、フジクラは、右金銭消費貸借契約を締結した際、本件会員権のほかに高根カントリークラブのゴルフ会員権も譲渡担保に供したが、その後、五〇〇〇万円のうち二五〇〇万円を原告に弁済したので、原告は、フジクラとの間で、高根カントリークラブ会員権に関する譲渡担保設定契約を合意解除した(甲1、2、甲A35、36、55、証人宮腰正英)。

(二)  原告は、右(一)の金銭消費貸借契約締結後、平成三年七月一九日までの間に、将来、本件会員権の譲渡担保権を実行する際に被告の使者として譲渡通知を行うべく、被告が本件会員権を譲受人欄記載の者に譲渡したことを通知する旨の記載がされ、譲渡年月日、譲受人欄及び被通知人住所・氏名欄が白地のゴルフ会員権譲渡通知書を作成し、これをフジクラに交付して、原告から通知人兼譲渡人欄(既に原告の氏名が記名されていた)の捺印と訂正のための捨印をもらうよう求めたところ、間もなく、フジクラは、原告に対し、被告の実印が押捺されたゴルフ会員権譲渡通知書を交付した(甲A37の1の存在、甲A55、証人宮腰正英)。

(三)  原告とフジクラは、平成三年七月一九日、右(一)の金銭消費貸借契約の残元金二五〇〇万円の弁済期を平成四年七月一九日に延期する旨を合意した。また、フジクラは、平成三年九月一二日、原告に対し、残元金二五〇〇万円のうち一〇〇〇万円を弁済した(甲A55)。

3  栗原は、平成四年二月ころ、フジクラに対する利息の支払いを怠ったので、フジクラは、栗原に対して、再三、元利金の支払いを催告した(証人宮腰正英)。

4  フジクラは、原告に対して、平成四年二月二〇日を弁済期とする利息の支払いを怠ったので、原告は、同年三月六日、フジクラに対して本件会員権の譲渡担保権を実行する旨を通知し、フジクラを介して被告から受領していたゴルフ会員権譲渡通知書に譲渡年月日を右同日と記載し、更に譲受人欄に原告の住所氏名を、被通知人の住所・氏名欄に西野商事株式会社の住所氏名をそれぞれ記入した上、これを同月七日、西野商事株式会社に対して発送し、同書面は、同月九日、同社に到達した(甲A37の1・2、55、56、弁論の全趣旨)。

5  しかるに、被告は、原告が本件会員権を取得したことを争い、原告及び原告が本件会員権を譲渡した場合の譲渡先に対する名義書換手続に協力しない意思を明らかにしている(争いがない)。

二  争点

1  被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際に、フジクラが本件会員権を再担保に供し、フジクラ又はフジクラの再担保先の譲渡担保権が実行されたときは、フジクラ又はフジクラから本件会員権を取得するすべての者に対して名義書換手続を行うことを承諾していたか。

(原告の主張)

ゴルフ会員権は、ゴルフクラブに入会してプレーする権利を主たる内容とするゴルフ場経営会社に対する契約上の地位であるから、プレー目的で譲り受けた者がゴルフ会員権の名義人である譲渡人に対して名義書換手続に協力するよう求める権利と一体となって初めて会員権取引市場において財産的価値を有するものとして売買、譲渡担保等の対象となる。

被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際に、フジクラに対し、栗原とフジクラ間の弁済期、債権額にかかわりなく本件会員権をフジクラが任意に再担保に供することを承諾するとともに、将来、本件会員権についてのフジクラ又はフジクラの再担保先の譲渡担保権が実行されたときは、本件会員権について、フジクラ又はフジクラから本件会員権を取得するすべての者に対して、直接、名義書換手続を行うことを承諾した。そして、フジクラは、原告に対して、本件会員権のみならずこれと一体として原告に対する右名義書換手続協力請求権について譲渡担保を設定したのである。

(被告の主張)

被告が本件譲渡担保設定契約を締結する際に、フジクラに対して、本件会員権を再担保に供することを承諾したことはなく、反対に、被告は、フジクラとの間で、フジクラが将来、本件会員権を処分する場合には、予め被告に連絡の上、被告の承諾を受けなければならない旨を合意したのである。

2  仮に、被告が本件譲渡担保設定契約を締結する際にフジクラによる本件会員権の再担保を承諾していなかったとしても、被告は、虚偽表示の類推適用により、これを原告に対して主張できないか。

(原告の主張)

被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際に、本件会員権の譲渡に必要な書類一切をフジクラに交付し、その後、原告がフジクラとの間の金銭消費貸借契約の弁済期限延長に先立ってフジクラを通じて被告の意思の確認を求めたところ、更に譲受人欄白地の譲渡通知書及び承諾書をフジクラに交付した。このように、被告は、フジクラが本件会員権を再担保に供することを同意しているかのような外形を作出し、原告は、これを信頼してフジクラに金銭を貸し付けたものであるから、被告は虚偽表示(民法九四条二項)の類推適用により、善意の第三者である原告に対し、再担保に同意していなかったことを主張することは許されない。

3  仮に、被告が本件譲渡担保設定契約を締結する際にフジクラによる本件会員権の再担保を承諾していなかったとしても、被告がこれを理由に原告の名義書換手続請求を拒むのは権利の濫用に当たるか。

(原告の主張)

被告は、フジクラが本件会員権を売却処分する際は、被告に連絡の上で処分する約束であったと主張するが、被告は、本件会員権をフジクラに担保として譲渡することは承諾しており、しかも、フジクラが本件会員権を再担保に供することにより原告から借り入れた金銭のうち二〇〇〇万円の支払いを栗原を通じて受けている。

また、栗原は、フジクラの再三の催告にもかかわらず、右二〇〇〇万円の残元金一五〇〇万円及びその利息の支払いを怠ったのであり、しかも、被告は、栗原がフジクラからの借入金の利息の支払いを怠った際にフジクラから請求されて、これを栗原を通じて支払ったこともあったのであるから、フジクラが譲渡担保権を実行することにより本件会員権を失うことを十分予測していたはずである。

そのうえ、本件会員権の時価は約八四〇万円に過ぎず、フジクラは無資力であるため、被告が名義書換手続に協力しないと原告はまったく債権回収の途を失うことになる。

これらの事情を総合すれば、フジクラが被告に無断で本件会員権を原告に譲渡担保に供し、原告が譲渡担保権の実行により本件会員権を取得したからといって、被告が原告の名義書換手続に協力しないのは、権利濫用に当たり許されないというべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

証拠(甲A39、40の1・2、41ないし44、45、48〜50、55、証人宮腰正英、弁論の全趣旨)によれば、

1  被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際、フジクラに対し、本件会員権に係る入会金預り証及び被告の印鑑登録証明書を交付するとともに、本件会員権の名義書換手続に必要な書類であるゴルフ会員権の売渡書、ゴルフ会員権の譲渡及び名義書換手続を委任する旨の委任状(代理人欄白地)、セントラルゴルフクラブ宛ての個人会員名義変更承認願(新会員名欄白地)、ゴルフクラブの退会届並びにゴルフ会員権の紛失届に署名し、実印を押捺して交付したこと、

2  被告は、本件譲渡担保設定契約を締結した後も、栗原がフジクラに対する債務の弁済を怠った場合には、フジクラにおいて譲渡担保権を実行して本件会員権を譲渡できるように、フジクラに対して、約一か月半から三か月ごとに新しい印鑑登録証明書を差し入れていたこと、

3  フジクラは、金融業者であって、ゴルフ会員権を担保に融資する場合には、担保として取得したゴルフ会員権を再担保に供して原告等から資金を借り入れ、この借入金利と貸出金利との差額を利益としていたものであり、担保提供者からは必ず再担保の同意を得ていたこと、

以上の事実が認められ、これらの事実を総合すれば、被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際に、フジクラに対し、本件会員権をフジクラが任意に再担保に供することを承諾するとともに、将来、本件会員権についてのフジクラ又はフジクラの再担保先の譲渡担保権が実行されたときは、本件会員権について、フジクラ又はフジクラから本件会員権を取得するすべての者に対して名義書換手続を行うことを承諾したものというべきである。

これに対して、被告は、本件譲渡担保設定契約を締結する際に、被告がフジクラに対して、本件会員権を再担保に供することを承諾したことはなく、反対に、被告は、フジクラとの間で、フジクラが将来、本件会員権を処分する場合には、予め被告に連絡の上、被告の承諾を受けなければならない旨を合意したと主張し、被告本人もその本人尋問において、これに沿う供述をするが、この供述は、前掲各証拠に照して採用することができず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

二 ところで、本件会員権のようないわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権を目的とする譲渡担保設定契約において、設定者が譲渡担保権者に対して、譲渡担保権者及び将来、譲渡担保権者から右ゴルフ会員権を取得した第三者のために、ゴルフ会員権の名義書換手続に協力する旨を承諾していた場合には、譲渡担保権者は設定者に対して、譲渡担保権者あるいはこれからゴルフ会員権を取得した不特定の第三者への名義書換手続に協力するよう求める請求権を取得するものと解され、譲渡担保権者が右ゴルフ会員権を再譲渡担保に供した場合には、ゴルフ会員権とともにこれと一体として右名義書換手続協力請求権も再譲渡担保の目的となると解するのが相当である。したがって、再譲渡担保権者は、譲渡担保権の実行によりゴルフ会員権を自ら取得する場合には、右名義書換手続協力請求権をも取得し、これに基づいて、設定者に対し、自己又は自己から将来、ゴルフ会員権を取得した第三者に対する名義書換手続を求めることができるというべきである。

これを本件についてみると、右一のとおり、本件譲渡担保設定契約の際に被告は、本件会員権をフジクラが任意に再担保に供することを承諾するとともに、将来、本件会員権についてのフジクラ又はフジクラの再担保先の譲渡担保権が実行されたときは、本件会員権について、フジクラ又はフジクラから本件会員権を取得するすべての者に対して名義書換手続を行うことを承諾し、フジクラは原告に対して本件会員権について再譲渡担保権を設定したのであるから、栗原のフジクラに対する借入金の弁済期及びフジクラの原告に対する借入金の弁済期がともに到来した後に原告が再譲渡担保権を実行し、その換価権能に基づいて本件会員権を自己に帰属させたことにより、原告は、被告に対する本件会員権についての名義書換手続協力請求権をも取得し、被告に対し、本件会員権について、その名義を原告あるいは原告から譲り受けた第三者に変更するよう名義書換手続に協力することを求めることができるというべきである。

第四  結論

これまで検討したところによれば、他の争点について判断を加えるまでもなく原告の請求は理由がある。

(裁判官深山卓也)

別紙<省略>

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